● 前橋工大 三田村研究室で2014〜15年の1年間計測していただいた温熱データの冬についてご紹介します。
■平面・断面計画
当事務所設計のこのお住いは冬の太陽光を中に入れ、土壁に蓄熱させるという平面・断面計画になっています。
広間(この家ではダイニングと称す)の後ろ側に曲線を描く土壁と版築壁があり、玄関部分はカフェにもなる土間と土壁の空間になっています。
ただし広間全体の壁は土壁ではなく、石膏ボード大壁下地に漆喰仕上げです。断熱材はPET再生断熱材パーフェクトバリアt100、外壁は通気層をとった現場の土入り左官仕上げです。冬は薪ストーブで暖房されています。
冬の写真をご紹介します。
広間の土壁に上部のガラス窓から冬の低い角度の日差しの太陽光が当たっているのがわかると思いますが、その効果はいかがでしょう?くつろぐお二人はこのお住まいの主 荒井様ご夫妻です。
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■ 冬の室内温度
1)ほとんど15°C以下にならない。
まず温度を見ると、真冬でもほとんど15°C以下にはなっていません。
まず前提としてこの住宅は全面ペアガラスの木製サッシュを全面に使っていることが重要なポイントです。
現在出ている複合サッシュほどではありませんが、最低限の気密性の確保が土壁の蓄熱・調湿効果を発揮する大前提になります。
その上で土壁の効果がどのようなものか見てみましょう。
薪ストーブを使用している広間はもちろんのこと、そこに隣接する土間と土壁のホワイエも15°C以下にはなっていません。無暖房のホワイエは室温15〜18°を推移し、温かくはないものの温熱的に安定しています。ここは東南部分がガラスになっており土間への日光の蓄熱が考えられます。
2 土壁の表面温度と空気温度
広間の空気温度と土壁の表面温度を薪ストーブの右側の棚ほぼ同じ場所で計りましたが、場所が近いこともありほぼ同じでした。急激に空気温度が上がっているのは、日射と薪ストーブの両方の要因が考えられます。
薪ストーブ後ろの版築壁のほうが土壁より温度が低いのは、薪ストーブの後ろに遮熱板を設けたため、熱が後ろに行っていないためと思われます。遮熱板を取る、付けないなど今後計画するときは気をつけたいと思います。
3 土壁の蓄熱効果・・・夜間の放熱効果
注目の外気との差ですが、グラフの山・・・温度のピークが半日(6〜10時間ほど)ずれている事がわかります。土壁が太陽と薪ストーブの昼の熱を蓄熱して夜間放熱している様子が見て取れます。
■ 冬の室内湿度
次に湿度ですが、薪ストーブを焚いている広間より、そこに隣接する土間と土壁のホワイエのほうが湿度が高く、おおむね45〜60%と良好な状態であることがわかりました。土間の蓄熱性と土壁の調湿性。両方の効果だと思われます。
「薪ストーブを焚くと空気が乾燥する」とよくいわれますが、それを実証しています。
カフェにもなる土壁土間の様子。
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以上、冬の温熱環境をご紹介しました。
このお住まいは伝統的構法の竹小舞土壁の家と異なり外壁全面が土壁というわけではありませんが、たとえ全面でなくてもその土地の条件、建物の平面・断面を検討しを定め、効果的に活用すれば蓄熱・調湿に優れる土壁の有効性を発揮できるということがわかる事例だと思います。
私としても今後は薪ストーブやオンドル・ペチカ・ロケットストーブなどと組み合わせた土の暖房利用をもっと試していきたいと思っています。
またこのお住まいは屋根が草屋根でその効果の測定もしていますので、今後夏の様子と草屋根の効果を改めてご紹介させていただきます。